門出、新しい研究生活――その3: 2つの本
年明けから極端に忙しくなりブログを書けなくなってしまったのは、研究室・仮住まい(および自宅)の片付けで手一杯だったからだと「その1」で書いたが、もうひとつ大きなことがあった。2つの本の制作である。
現役中に学術雑誌や共著図書に出した日本語・ドイツ語の論文・論説でまだ自分の著書にまとめていないものを、それぞれ体系的にならべて日本語とドイツ語の本として出版しよう、それでもって現役中の仕事に区切りつけよう! という意図でもって ヘトヘトになりながら取り組んだ。
でも、片付けもあり、やってるうちに、年度中に2つとも実現するのはとうてい無理だということが 分かってきた。 なので、3月末までの刊行を条件に出版助成金が約束されていた日本語の方に力を集中した。そして、なんとか出せた^^;;

ドイツの社会経済思想が概して多様性と持続性を含む政治経済システムを構想していたことを念頭に置きつつ、第1部では、18・19世紀転換期の J. メーザー(1720~94年)とG.W.F. ヘーゲル(1770~1831年)を論じ、またA.ミュラー(1779~1829年)から19世紀中頃のB.ヒルデブラント(1812~78年)やW.E.v.ケテラー(1811〜77年)への道筋も描いた。
第2部。盛期歴史学派の領袖G.シュモラー(1838~1917年)による演繹的・多様性包括的な経済学の意義を認めつつも、細目研究に終始し過ぎて合理的理論・純粋理論の包摂において脆弱なっていた。それを補完し、歴史学派の方法の継承を試みたのがエトガー・ザリーン(1892~1974年)であった。この関連でM.ヴェーバー(1864~1920年)やW.ゾンバルトまた高島善哉(1904~90年)の位置付けも試みた。
その他、カール・シュミット(1888~1985年)がミュラーを低く評価し過ぎたことを再検討すべきこと(補論1)、経済学史家 小林昇(1916~2010年)については彼の青少年期の文書と のちの文学作品(歌集)とを見ると彼が平板な進歩主義には批判的でむしろロマン主義的な世界観をもっていたことが分かること(補論2)、ザリーンの著書『経済学史』(初版1923年)には彼自身の改訂による5つの版があったこと(補論3)、加田哲二(1895~1964年)においてマルクス主義への傾倒と同時に日本思想やナチズムへのシンパシーがあり、そこに戦時中の社会経済思想史研究者のひとつの典型が見られること(補論4)、これらを4つの補論で述べた。
専門家ではない読者の方々には、それらの研究を進めていった経緯を説明した「序」と、個々の議論にどのような意味があるかを示した「結」とからお読みいただいたら良いかもしれない。そこで興味をもたれた章・補論へと入って行かれるとして。もちろん、最初から通して読んでいただければ体系が分かっていただけやすいけれども。
さて、ではドイツ語の本の方はどうなったかというと、校正が極端に長くかかったのだが、先週やっと校了となった!
いつ刊行されるか尋ねたら「6~8週間かかる」とのことなので、それまで休憩できると思いきや、きょう出版社からメールが来て、広告・宣伝のための文章をすぐに出してほしい、とのこと。うーん、1000字の場合、500字の場合、英語でも、また著者略歴も、と要求が多いので、緊張が走る。書斎の片づけはまた休止^^;; でも、そのメールからして「この本、ホントに出るんや!」と(当たり前だが)確信できてうれしい。
ぼくにとってこの本はドイツ語の単著図書として3冊めだが、毎回 祈るような気持ちで制作してきた。ドイツ語は得意だが、母語ではないので微小なニュアンスの違いを操るのはむつかしい。本場の世界に自分のテーゼでもって打って出るとき、主張しないといけないが、言い過ぎてもいけない。怖さがそこにあるのだが、それを乗り越えなければ国際的な仕事にはならない。しかも丁寧な叙述でもって。
ちなみにその本のタイトルページをデータからここに示しておく。タイトルを日本語に訳すと『ユストゥス・メーザーからエトガー・ザリーンまで――ドイツ政治経済思想史について 日本の視点から』である。いくつかの章は、日本語の本の章のドイツ語ヴァージョンである。といってもかなり手が加えられているけれど。
出版社は、歴史学派の経済学者たちの本を数多く刊行したことで知られる ベルリンの老舗ドゥンカー・ウント・フンブロート社(1798年設立)である。
でも、この本についてはこれぐらいにしておこう。出版されてからまたあらためて。
以上の2つの本のいずれも 各章・補論の初出段階ですでに沢山の方々にお世話になったが、今回新たに本にするにあたって、初出の論稿をすべて通しのワード文書にする作業と、人名索引の作成とで、関学の大学院文学研究科院生の岡本奈菜さん(ドイツ文学)に大変お世話になった。日本語の本もドイツ語の本も、である。また後者は、ユストゥス・メーザー協会会長のマルティン・ズィームゼンさんに表現をチェックしていただき、お世話になった。記してお礼申し上げたい。

