論文「ユストゥス・メーザーの経済思想――ヴィルヘルム・ロッシャーとドイツ経済学史におけるその位置付け」

 これは、ドイツ社会政策学会 経済学史専門部会の2018年の大会(ドイツ・ダルムシュタット)の成果として つい最近出版されたフォルカー・カスパリ編『官房学と重商主義 Kameralismus und Merlkantilismus』(ベルリン、2022年)に所収された ぼくの論文である。原文はドイツ語で “Justus Mösers wirtschaftliche Ideen und deren Einordnung bei Wilhelm Roscher und in der Geschichte der deutschen Volkswirtschaftslehre”。

 著者のひとり T. ピーレンケンパー氏の他界とコロナ禍での困難とから刊行が大幅に遅れたけれど、ようやくこの共著が陽の目を見たので、内心ホッとしている(出版社の広告へのリンク)。

V.カスパリ編『官房学と重商主義』(2022年)

 ヴィルヘルム・ロッシャー(1817~94年)はグスタフ・シュモラー(1838~1917年)ほど徹底した歴史学派の経済学(既存経済学相対化、帰納法・細目研究)を示していなかったけれども、著書『国家経済学講義要綱――歴史的方法による』(1843年)で自ら「歴史的方法」を宣言したように、やはりロッシャーでもってドイツ歴史学派経済学が始まったと見なすことができよう。

 そうだとすると、さらにロッシャーは何を参考にして経済学の歴史的方法を言い出したのか問いたくなる。彼自身サヴィニーらによる歴史法学になぞらえてのことだとを言っているから、それはそうなのだとしても、経済学・経済思想の流れにおいてはどうかという問題は残る。

 しばしば経済学史の叙述においてドイツ歴史学派経済学の先駆者として保護貿易主義のフリードリヒ・リスト(1789~1846年)が全面に押し出されているが、そう単純ではない。少なくともロッシャーにおいては、リストのみからではない。

 ロッシャー『ドイツ経済学史』(1874年)を読むと、ユストゥス・メーザー(1720~94年)が「歴史的方法の最大の巨匠のひとり」とされ、「18世紀ドイツ最大の経済学者」とも言われている(太字はロッシャーによる強調)。しかもその本でリストよりもメーザーに多くのページ数が費やされているのである。

 メーザーはある種の重商主義者であった。「ある種の」とは、外国製品の流入を否定的に捉えて自国の産業育成を企図した重商主義であることはたしかだが、多くのドイツ重商主義者・官房学者が人口の増大を声高に叫んだのに対してメーザーは貧困層が増大するようなそれには否定的だったからである。

 これらの点に着目してメーザーの経済思想を説明したのがこの論文である。今のところこれを日本語に訳すメドは立っていないけれども、日本の方々にも果敢に挑戦してくださることを望んでいる。

 その際、共訳書メーザー『郷土愛の夢』(2009年)に所収されたメーザーの諸論文とりわけぼくが担当したそれと、同じく所収の肥前栄一氏との共訳、ロッシャー「経済学者としてのユストゥス・メーザー ――18世紀の諸理念に対する歴史的・保守的反作用」(ロッシャー『ドイツ経済学史』のメーザー章)とをご参考までお読みいただければ ご理解を助けるであろう。 

肥前栄一・山崎彰・原田哲史・柴田英樹訳、メーザー『郷土愛の夢』(2009年)