小林昇 青少年期・福島期文書
昨年の『19世紀前半のドイツ経済思想』には第10章「小林昇のリスト研究とこれから」があるので、小林昇先生(1916~2010年。福島大学・立教大学名誉教授、日本学士院会員)の長女 松本旬子さんにもお贈りしたところ、小林先生の青少年期・福島期をめぐって旬子さんとやり取りするようになった。
そのなかで「父の青少年期から福島期にわたる、手書きを中心とした文書類が手元にあるのですが、分散することなくまとめてどこかの研究機関や大学に寄贈して、研究に役立つように所蔵していただけないかと思っています。ご協力いただけませんか?」とのご依頼があった。
若き日々の小林昇(以下敬称略)は様々な側面をもっていたが、なかでも同人文芸誌『狼煙』全15号(1939~44年)に欠かさず投稿していたから、寄贈先として、そのあたりを研究している文芸関係の研究機関や大学などはどうか、と最初 旬子さんと話し合った。しかし、旬子さんの知る関係者を考えても、ネット検索をしても、それに当てはまる研究者や機関・大学は見当たらなかった。
旬子さんのもうひとつのご希望は、文書類のかなりの部分が小林昇の福島大学時代(1940~55年、ただし44~46年に出征による空白)に書かれていることから福島大学附属図書館に寄贈することであった。
小林昇の経済学史・思想史の研究は『小林昇経済学史著作集』全11巻(未来社、1976~89年)にとてつもない作品群として見られるが、それを「育んで、なにほどか成長させはじめたのは、往時の福島時代においてだった」と自ら述懐しているように(『山までの街』八朔社、2002年、「あとがき」)、福島時代は彼の研究の生成の場として極めて重要である。
そのメモリアルとしても福島大学の図書館でこの文書集成を収蔵・公開していただければ、良き伝統をアピールすることができるし、大学の学術的価値を高めることもできるはずである。
こう考えて、福島大学経済学部(現 経済経営学類)の卒業生であるぼくは――といっても小林の立教大移籍後の学生だったが――その信陵同窓会事務局に寄贈について相談し、文書集成の目録と、内容・意義をまとめたものと、全体写真とを添付して、図書館長の塘忠顕教授に寄贈を申し出た。その結果、先方がそれを受託してくださり、先週の水曜日(9/1)すべてを先方に送付した。
以下、Ⅰノート類、Ⅱ 日記、Ⅲ その他 と大づかみに分類した全体写真と、その目録である。ご覧のように27点の(ただし細かく数えると30点を超える)小ぶりのコレクションであるが、青少年期・福島期の小林昇を研究するための一級の資料といえよう。
目録と説明文「この文書集成から分かる初期小林昇」は、ここをクリックするとダウンロードできる。目録については下に示しておくが、福島大の図書館が整理し直せば文書番号などは変更されうる。先方からは、所蔵・公開の仕方を決めるまでいくぶん時間がかかりそう、と伺っている。また、旬子さんが数年前に福島大に寄贈した小林昇の福島時代の講義ノートもそこに加えられる、とのこと。
末筆ながら、この文書集成を松本旬子さんからお預かりしてからここに至るまでに、お受け下さったた福島大学附属図書館の塘忠顕氏・小沼郁子氏はもちろんのこと、ご助言・ご助力を下さった次の方々にも、心からの感謝の意を表したい。伊藤宏之氏・大塚雄太氏・岸美樹氏・高橋礼子氏・竹本洋氏・中川弘氏・服部正治氏・渡辺邦博氏(五十音順)である。